『宇宙船ガリレオ号』訳者の謎
2020-05-06


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2016年8月よりシミルボンでレビューを書くようになったので、こちらのブログはしばらく休眠していた。本業が忙しく、シミルボンの方も2018年9月を最後に1年半ほど休んでいたが、新型コロナのせいで少し時間ができたため、シミルボンでレビューを再開、こちらのブログはレビューとまではいかないまでも、気になっていることを書き留めておくメモがわりに使っていきたい。

 2019年12月号に掲載された『本の雑誌』の「本棚が見たい!」コーナーで、「戦後日本の翻訳SFはほぼある」との発言をしてしまったことを実は大変後悔している。おそらくは慣れぬ取材で舞い上がっていたのだろう、ゲラの段階では「戦後日本のSFは」となっていて、いくら何でもそれはないと「翻訳SF」に訂正したのだが、後から考えるとこれでも大法螺だ。持っていない本は山のようにある。特にないのが、少年少女もの、つまりジュブナイルである。石原藤夫の労作『SF図書総解説1945-1970』でも「大人もの」と「少年少女もの」が分けられ、それぞれ2,050点、1,150点が収録されていることからもわかるように、SF界でジュブナイルの占める量と質は大変高い。自分も、小学生・中学生の頃に読んだ岩崎書店やあかね書房のジュブナイルに大変影響を受けている。ハインライン『さまよう都市宇宙船』、トム・ゴドウィン『宇宙の漂流者』を読んだときの感動は何十年もたった今でも思い出せるほどだ。

 幸い、そのあたり(1966年〜1973年ころ)の自分たちが夢中になって読んだジュブナイルは弟が集めているので、こちらはその前、戦後日本初のジュブナイル叢書である石泉社「少年少女科学小説選集」(1955年〜1956年)や講談社の最初の2叢書「少年少女世界科学冒険全集」(1956年〜1958年)「少年少女世界科学名作全集」(1961年〜1962年)あたりを集めることにした。しかし、なかなかこれが揃わない。石泉社は何とか揃いを入手したが、講談社は一冊ずつ探して購入している。最初のものは35冊もあるので、揃えるのは大変だ。結構な値を払い苦労して入手しているので、読まないと損をしているような気になってくる。試しに何冊か読んでみたら、なかなか面白い。日下実男『科学の冒険者たち』というノンフィクションがあるのだが、スプートニクが飛んだ直後だけあって、その偉業に人々が興奮している様子がよくわかる。ロケットの歴史から深海潜水艇、原子力利用、銀河系の話まで話題は多岐に渡り、非常にわかりやすく書かれている。大人目線でなく、主人公の子どもたちが調べ、大人が助言するという構成をとっているので、子どもでもとっつきやすい。科学とSFの橋渡しの意味からも、こうした本は今でも書かれるとよいのではと思わされた(あるのかもしれないが)。

 さて、ようやく本題のハインライン『宇宙船ガリレオ号』について述べる。これは「少年少女世界科学冒険全集」の記念すべき第1巻(写真左)。ジュブナイルの王道に乗っ取り、科学好きの子どもたちが3人でガリレオクラブという集まりを作り、ロケット実験をしているところから話は始まる。そこへメンバーのおじさんの科学者がやってきて、月旅行へ行こうという話になる。おじさんは高名な原子力研究者で、コネを使って本当にロケットを手に入れてしまうのだ。あれよと言う間に子どもたち3人とおじさんは月へ出発する。着陸も無事に果たすのだが、何とそこには既に人が到達していた。この正体がナチの残党であるというのもすごいが、さらに子どもたち(とおじさん)が彼らをどんどん殺していくのもすごい。悪に対する暴力を肯定する、いかにもハインラインらしい展開ではあるのだが、この内容で当時の悪書追放運動にひっかからなかったのかと心配になってくる。


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[science fiction]

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