禺画像]
本書は二〇一一年に第2回創元SF短編賞佳作を受賞し、二〇二一年に第一作品集『感応グラン=ギニョル』を刊行して高い評価を受けた作者による、待望の第二作品集である。
空木の作品は残虐、残酷という言葉で形容されることが多いが、それは決して表面上の、言葉の上だけのことではない。目をそむけたくなるような残酷な出来事の中核にある「弱者の痛み」、肉体の痛みにせよ、心の痛みにせよ、その「痛み」のもつ現前性にこそ空木作品の特色があるのではないだろうか。空木の作品を読むとき、読者はドラマの単なる観客であることは許されない。いつの間にか舞台の上にあげられ、劇中に引きずり込まれ、思い切り心を揺さぶられ、登場人物と同じ「痛み」を経験することになる。効果的な二人称の使用、SF的な舞台設定、よく作り込まれた小道具は、すべてそのために奉仕している。その手際の鮮やかさ、切れ味の鋭さといったら、研ぎ澄まされた包丁を使いこなす一流のシェフのようだ。
たとえば、本書収録の「4W/Working With Wounded Women」では、上甲街(アッパー・デック)と下甲街(ロウアー・デック)に分けられた雙層都市(ダブル・デッカー・シティ)を舞台として、下甲街に住む主人公ユイシュエンと彼女を取り巻く下層階級の人々の暮らしが描かれる。薬指に埋め込まれたデバイスによって、上甲街の人々と下甲街の人々は量子的に結ばれており、上の者が負った傷は即座に下の者に転移する。これは「転瑕(てんか)」と呼ばれており、下の者は突如として自分に出現する傷とその痛みに耐えるしかないのである。互いの冥婚相手が誰かはわからないようになっている。この仕組みは「冥婚関係(エンゲージ・リンク)」、関係を支える量子システムは「因果機関(カルマ・エンジン)」と称され、併せて「回向(エコー)システム」と呼ばれている。DVや無差別殺人など、現実に存在する理不尽な暴力を象徴させた都市の設定は見事で、皮肉を込めたネーミング・センスも群を抜いている。
物語では、ある時期から突然ユイシュエンに現れる傷が増えてきて、不条理な暴力と痛みに耐えるため、彼女は、上の者が正義のために闘うヒーローであることを夢想する。もちろん、そんなはずはなく、この夢想は結末近くになって残酷に崩れ去る。悲劇は、ユイシュエンの同居人女性である妊婦メイファンにも、もっと残酷な形で訪れる。作中でのメイファンの怒りの声に触れて、心が震えたのは自分だけではないだろう。これまでも、「感応グラン=ギニョル」や「地獄を縫い取る」(どちらも第一作品集所収)などの諸作で描かれてきた弱者(障碍者や女性)が受けてきた「傷」のもつ意味が、ここではさらに深められ、そして、宥和的な結末に至る。読者に「傷」を突きつけて終わるのではなく、「赦し」にまで至っているという点で、初期作品からの深化が伺える。本書中ではまずこの作品を推しておきたい。