『異邦人たちの慰め』イアン・マキューアン
2013-01-07


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積んどく本読破シリーズ第二弾。1994年に訳されたイアン・マキューアンの第二長編である。なぜ買ってあったのかというと、1995年に訳された第三長編『時間の中の子供』をSFマガジンでレビューしたことがあり、その時の印象が良かったからだ。『時間の中の子供』には少しSF風のところもあったのだが、こちらには全くない。丁寧な描写でじわじわとクライマックスまで盛り上げていく文学的サイコ・サスペンスといった趣である。

 名前は出てこないが、ベネチアとしか思えない観光都市にやってきた一組のカップル(夫婦ではない)。彼らの退廃的な生活がこれでもかといわんばかりの細密かつ視覚的な描写で描かれていく。その中で、もう一組のカップル(こちらは夫婦)と偶然知り合い、彼らの家に招かれ、主人公たちは、その異常な性癖に気づいていく。そして、偶然知り合ったと思っていたのが実は必然であったと気づくとき、恐るべき惨劇が起きる……。

 なんて紹介するとまるで三流ホラー映画のようだが、文章が一流であるため、全体には品格があり、ブッカー賞候補になったというのも肯ける出来栄えだ。情景描写を味わいながら上質なサスペンスが楽しめるので、セリフばかりで周囲の描写の全くないシナリオのような日本の小説(何とは言わないが)に飽きてきた頃に読むと、海外文学の素晴らしさが味わえると思う。
[literature]

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