『暗黒星雲』フレッド・ホイル(1958年11月/法政大学出版局)
2025-04-19


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科学者集団は暗黒星雲とのやり取りを続けるが、政治家たちと対立し、アメリカおよびソ連の政治家は星雲に対して水素爆弾を積んだロケットを百五十機発射する。それに対する星雲の反応は恐るべき結果を人々にもたらした。そして、その後十日足らずで、ついに暗黒星雲は太陽系を離れる。水素ロケットのせいではなく、わずか二光年先の星雲知性体が星雲を超える理知的存在について解答を得たと連絡してきたため、そこへ行って確かめたいというのだ。かくして暗黒星雲は去った。置き土産として、星雲との通信方法および人類が到達していない知識を得るための方法を残して。科学者たちは果敢にそれに挑む。果たして知識は得られるのか……。

 本書は、科学を普遍言語として用い、異なる知性間での意思疎通が可能と考える点で、『三体』を始めとする劉慈欣作品と共通している。人間をアリにたとえたり、電波が重要な役割を果たしたりするのも同じだ。太陽系規模の知性とのコンタクトという点では、惑星規模の知性を扱う『ソラリス』よりもスケールは大きい。ただし、意思疎通があまりに容易にできてしまうところは、リアリティのなさという欠点を生じさせているが、一種の思考実験レポートだと思えば、許せてしまうところもある。小説的完成度よりもアイディアの面白さを優先させた作品なのだ。壮大な規模で展開されたファースト・コンタクトもののクラシックとして、高く評価しておきたい。

写真は左上から右回りに
1958年11月初版
同(表紙違い)
1967年9月改版第一刷(訳者「改版の刊行に際して」収録)
1970年5月新装版第一刷(コスモス・ブックス)
1974年10月新装版(コスモス・ブックス)

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[science fiction]

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